PrCaMnO3のシングルドメイン単結晶作製とその異方性測定

まず、ペロブスカイト構造について説明します。

下の図はペロブスカイト構造の模式図です。

図1 ペロブスカイト構造

このように、Bサイト元素を中心に酸素イオンが正8面体を、さらにその周りをAサイト元素が立方体を形成するように配置した構造をペロブスカイト構造と呼びます。

本研究室では、Bサイト元素をMnにした、ペロブスカイト型Mn酸化物の起こす様々な物性に注目し、研究しています。

〜本研究室で注目している物質例〜
Pr1-xCaxMnO3、Bi1-xSrxMnO3、Nd1-xBaxMnO3など。


・Pr1-xCaxMnO3の物性

この物質は、図1でAサイトに+3価の希土類のPrまたは+2価のアルカリ土類金属のCaが入っています。ここではAサイトが一種類の希土類のみ(x=0)の物質

を端物質とよび、PrMnO3と表しますが、端物質ではAサイトはすべて+3価のPrであるため、結晶中のMnは+3価のイオンとなっています。結晶中のMnイオン

の最外殻の電子は、それぞれがクーロン反発力で互いを排斥し合うため結晶全体は絶縁体を形成します。

しかし端物質のAサイトの一部をCaで置換すると(xを増加させると)、物質全体にはその置換量と同じだけのMn4+が生成されます。

ここで図2にMn3+とMn4+のd軌道の電子配置の模式図を示します。


図2 Mn3+とMn4+の電子配置

このようにMn4+はMn3+と比べて電子が一つ少ないため、価数の異なるMnイオンが存在すると結晶全体は伝導性を持つようになります。

しかしx=0.5のときは電荷整列が起こり、結晶全体は絶縁体に転移します。

電荷整列は通常x=0.5でしか起こりませんが、物質によってはx≠0.5でも起こることがあります。そしてPr1-xCaxMnO3は0.3<x<0.75の広い範囲で電荷整列を起こすことが分かっています。(1) 

このとき、例えばx=0.35での電荷整列時のMnサイトの模式図は図3のようになります。


図3 Pr1-xCaxMnO3(x=0.65)の電荷整列時のMnサイトの模式図

すると図3から、Mn4+の一部がMn3+と置き換わって安定していることが分かります。ここで、Mn3+はMn4+に比べてeg電子を多く持つため、

このeg電子がキャリアとなるならば、軸方向によって伝導性に差があると考えられます。

これが本研究で注目している異方性の可能性です。しかし実際のPr1-xCaxMnO3で異方性の確認をするのは困難です。その理由は以下で説明します。

Pr1-xCaxMnO3は各結晶軸の格子定数の差が小さいため、単結晶化しても軸が混ざった結晶になってしまいます。図4はそのことを二次元的に表したものです。

図4 シングルドメインとマルチドメインの二次元的模式図

一つの四角形は、軸の揃った単位格子が集まったものでドメインと呼びます。すると、図からわかるようにマルチドメイン単結晶はドメインの向きが局所的には揃っていても、

全体的には軸の配列が揃わず乱れています。通常のPr1-xCaxMnO3単結晶はこのような状態をとっています。

これに対してドメインの軸も全て揃った単結晶(シングルドメイン単結晶)を作製することが本研究での第一の目的です。


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(1) Y. Tomioka, A. Asamitsu, H. kuwahara, Y. Moritomo and Y. Tokura, Phys. Rev. B 53, R1689 (1996)