1986年、J.G.BednorzとK.A.Müllerによって銅酸化物高温超伝導体が発見されて以来、銅酸化物についての多くの研究がされています 。銅酸化物高温超伝導体を含めて銅酸化物に共通していることは、様々なタイプの二次元Cu-O面が存在するという ことです。その磁性と超伝導のメカニズムは深く関係していると思われるため銅酸化物の磁性に対して興味がも たれています。その中でも層状銅塩酸化物Ba2Cu3O4Cl2は、他 の銅酸化物にはない特徴的なCu-O面をもつことで注目されている物質です。
Ba2Cu3O4Cl2は二次 元のCu3O4面、塩素、バリウムの層からなる正方晶の化合物です(図1)。最大の特徴は、Cu3O4面には配位状態の異なる二種類の銅サイト(CuA,CuB)が共存することです(図2)。そのためCu3O4面は変化に富んだ興味深い磁性を示します。Ba2Cu3O4Cl2には約330K(TH)と約32K(TL)に2つの磁気転移があることが観測されています。CuAスピンはT>THで短距離的反強磁性秩序が残っている常磁性状態であり、T<THでは長距離的反強磁性秩序状態となります。しかし図3の磁化の温度変化が示すようにT<THでは弱強磁性が存在します。この弱強磁性成分はジャロシンスキ−・モリヤの相互作用によりCuA間のスピンが反強磁性軸からわずかに傾くために現れるものであると考えています。一方、CuBスピンはT>TLの範囲で常磁性状態であると考えられています。T< TLでは他の実験結果で反強磁性秩序状態になることが提案されているが、T<TLで現われる磁気ヒステリシスに対する確定した説明がありません。また図3に示すように約80K(TM)で磁化が極大を示します。これに対してはTL<T<TMでCuB格子に短距離的反強磁性秩序が残っていると考えられているがはっきりとは分っていません。このようにこれまでのところ、競合する相互作用のなかでのT<TMのCuBのスピン構造に対する確定した説明がありません。本研究では、競合する相互作用を持つ化合物Ba2Cu3O4Cl2の磁気構造と弱強磁性成分の原因を明確にすることを目的としています。
Ba2Cu3O4Cl2の単結晶